東京地方裁判所 昭和57年(合わ)227号 判決 1985年3月13日
主文
被告人を懲役一八年に処する。
未決勾留日数中六〇〇日を右刑に算入する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
(犯行に至る経緯)
一(一) 被告人は、明治学院大学付属中学校、同付属高等学校を経て昭和四六年四月同大学社会学部社会学科に入学したものであるが、高校生の頃から社会問題に深く関心を抱き、学園闘争に参加し、あるいは三里塚の土地闘争で救護活動に加わるなどしたが飽き足らず、学園闘争の過程で知り合つた友人の勧めで同四七年一〇月ころ、黒川芳正が主宰する底辺委員会という日雇労働者の闘争を支援する会合に出席するようになつたのを契機に、劣悪な労働条件の下におかれたいわゆる下層労働者をめぐる種々の問題点について深い関心を寄せるようになり、その後、同四七年末の山谷の労働者の越冬闘争、同四八年秋の高田馬場の寄せ場の実情調査などに黒川芳正と参加するうち、同人と親しく交わると共に次第にいわゆる下層労働者をとりまく閉塞した問題状況をいかに打破すべきか深刻に考えるようになつた。
(二) 黒川芳正は、全共闘運動に参加した後、革命運動について模索するうち、現在の日本でプロレタリア革命の主体となり得るのは日雇労働者のようないわゆる下層労働者をおいてほかにないと考えるに至り、実際に山谷、高田馬場等の寄せ場に入り、自ら日雇労働者として働きながら、前記底辺委員会を主宰して、越冬闘争等の支援活動に従事するうち、日雇労働者の意識を高め、よりよい労働条件を獲得するための運動を活発にするには武器をとつて闘わなければならないと確信するようになり、昭和四八年に高田馬場の寄せ場で知り合つた佐々木規夫と議論をたたかわせていわゆる武装闘争を行うべきでことで意気投合し、同四九年五月ころ同人から同人が所属する「東アジア反日武装戦線狼」と称するグループが作成したいわゆる爆弾闘争等の非合法活動のための手引き書である「腹腹時計」(昭和五八年押第三一四号の5は、これと内容同一である。)の供与を受け、更に同人の紹介で日本帝国主義打倒を標榜して活動していた右「狼」グループに所属する大道寺将司と折々会合するようになつて、ますます前記の確信を深めた。
二(一) 被告人は、昭和四九年六月ころ、右黒川からいわゆる下層労働者の闘いを盛り上げるためには、武器をとつて闘うべきことを説かれて、これに共鳴し、同人から「腹腹時計」等闘争の資料を渡されてこれを検討し、以後、同年七月初めには同人の指示で東京都杉並区下井草四丁目二七番二三号所在のアパート第二井草荘の一階八号室を被告人の名義で賃借して都内の実家から移り住み、同年八月三〇日には、手製爆弾による武装闘争に備えて黒川と共に水戸市内まで赴き、農薬店で爆薬として用いるために塩素酸ナトリウムを主成分とする除草剤約三〇キログラムを購入して右被告人方の居室に搬入し、同年一〇月ころには、同室の床下の地面を堀り下げて地下作業場を造り、更に同年一〇月下旬ころには、黒川を手伝つて前記「腹腹時計」を参考に小型のびん入り爆弾を試作した上、奥多摩山中での爆破実験に立会うなど、着々爆弾闘争の準備を進めた。
この間、黒川は、前述のように、大道寺将司と度々会合して意見を交すうち、同年九月ころ、同人から同年八月三〇日の三菱重工業ビル爆破事件は自分たち「狼」グループが決行したと打ち明けられ、その後、右「狼」と連係して「大地の牙」グループが東アジア反日武装戦線に参画して爆弾闘争を始めたと聞くに及び、いよいよ自らも被告人と共に、右戦線に参画して爆弾闘争に踏み切る決意をかためた。
(二) 被告人は、かねてより、黒川が武装闘争を目指すグループと接触していることは同人から聞知していたが、昭和四九年九月末ころ、それが三菱重工業ビル爆破を実行した東アジア反日武装戦線「狼」であることを知らされ、さらに、同年一一月ころ、同人からかねて準備を進めて来た爆弾闘争の実行に踏み切ろうと提案されてこれに賛同した。そして、このころ、黒川と話合つた結果、爆弾闘争の実行のためにもう一人仲間を増やすことになり、学園闘争で活動していた明治学院大学生桐島聡を黒川において説得して仲間に引き入れ、ここに被告人、黒川及び桐島の三名は、同志的グループを結成し、東アジア反日武装戦線に参画して、前記「狼」、「大地の牙」の両グループと連係して活動することとし、被告人ら三名のグループの爆弾闘争の手始めに判示第一の犯行を実行した上、東アジア反日武装戦線に参画する抗日パルチザン義勇軍「さそり」が犯行に及んだ旨の声明文を新聞社へ送付して、「さそり」グループの名乗りをあげた。
三 昭和五〇年一月中旬ころ、前記の三グループは、組織統合は将来の問題として、当面各グループから一名ずつ出て折々会合しそれぞれの爆弾闘争の進め方につき意見、情報等を交換しながら相互に協力し合つていくことで意見の一致をみ、同年一月二八日ころから同年四月一五日ころまでの間に計約一二回にわたり「狼」から大道寺将司、「さそり」から黒川芳正、「大地の牙」から斉藤和がそれぞれ出席して、都内の喫茶店で会合(以下この会合を三者会談という。)を重ね、爆弾闘争に関して協議した。そして、一連の三者会談の場を通じて、前記三グループが相互に意思を通じ合つて判示第二の各犯行を行い、「狼」、「さそり」の両グループが相互に意思を通じ合つて判示第三の犯行を実行した。その後、「さそり」グループによつて判示第四の犯行が実行された。
(罪となるべき事実)
第一 被告人は、昭和四九年一一月ころ、黒川から、近々、手製爆弾により武装闘争の実行に踏み切るべく、その攻撃の対象として、手始めに戦前、戦中を通じて中国人、朝鮮人を酷使し、戦後も下層労働者を搾取、収奪している鹿島建設株式会社(以下、鹿島建設という。)が適当である旨の提案がされてこれに賛同し、その後間もなく前記の経緯で爆弾闘争に賛同して「さそり」グループに加わつた桐島も交えて三人で手分けして鹿島建設の本社、工場、工事現場等の所在、警備状況などを調査した結果、東京都江東区東陽町二丁目三番二〇号所在の鹿島建設建築本部の内装センターKPH工場を攻撃目標とすることとし、同年一二月一〇日すぎころ、東京都杉並区下井草四丁目前二七番二三号第二井草荘八号室の被告人方において、黒川、桐島と協議して、同月二二日夜に黒川と桐島において前記工場内に爆弾を仕掛ける旨決定し、ここに被告人は、黒川、桐島と共に治安を妨げ、かつ人の財産を害する目的をもつて、右KPH工場において爆発物を使用する旨の謀議を遂げ、そのころ右被告人方において、黒川、桐島と共に後記の手製爆弾と時限式起爆装置を準備した上、同月二二日午後九時三〇分ころ、前記KPH工場で、桐島において見張りをし、黒川において容量約一リツトルの金属製ワツクス缶に塩素酸ナトリウムを主成分とする除草剤クロレートソーダと炭粉を重量比四対一の割合で混合した爆薬約一キログラムを詰めこれにトラベルウオツチ、乾電池、ガス点火用ヒーター等からなる時限式起爆装置を接続させて翌二三日午前三時に爆発するように調節した時限式爆弾一個に灯油入りのポリタンク二個を針金でしばりつけたものを、右工場内の作業用台車の下に設置し、同月二三日午前三時一〇分ころ右時限式爆弾を爆発させ、もつて爆発物を使用した、
第二 被告人は、昭和五〇年一月一〇日ころ、黒川及び桐島と会合した際、黒川より、次の爆弾闘争の対象として、戦時中木曽谷のダム工事で中国人、朝鮮人を酷使して多数の犠牲者を出し、今日でもマレーシアのテメンゴールダム建設にあたつて現地の反動政権に協力して革命勢力に敵対している株式会社間組(以下、間組という。)を攻撃すべきである旨提案されて桐島と共にこれに賛同し、黒川、桐島の両名と手分けして都内にある間組の工事現場について調査を始めた。一方、黒川は、同月二八日ころ都内の喫茶店で行なわれた三者会談の席上、「さそり」は次に間組を狙つている旨その計画を報告したところ、同年二月三日ころの三者会談において、出席者間で右計画は「さそり」、「狼」及び「大地の牙」の三グループが共同して実行すべきことで意見が一致し、これを受けて三グループがそれぞれの立場で間組関係の具体的攻撃目標を物色調査して協議の末、同月二五日ころの三者会談において「さそり」グループが間組本社のある東京都港区北青山二丁目五番八号所在のハザマビルヂング(以下、間組本社ビルともいう。)六階に、「狼」グループが同ビル九階に、「大地の牙」グループが埼玉県与野市大字与野一二三三番地所在の間組機械部大宮工場(以下、大宮工場という。)にそれぞれ爆弾を仕掛け、同月二八日午後八時を期して右三か所を同時に爆破することを最終的に決定したが、大道寺将司は「狼」グループの構成員である片岡利明、大道寺あや子及び佐々木規夫に、斉藤和は「大地の牙」グループの構成員である浴田由紀子に、それぞれ右三者会談の都度その協議結果を伝えて賛同を得、黒川においても、同月二五日ころまでには、被告人及び桐島に対し、右協議結果のうち、前記三グループが連帯共同して間組本社ビル六階、九階及び東京郊外の工場の計三か所にそれぞれ時限式爆弾を仕掛けて同時に爆破すること、「さそり」グループは右のうち本社ビル六階の爆破を担当すること、決行の日時を同月二八日午後八時とすること、決行直後に、間組本社ビル六階は東アジア反日武装戦線「さそり」が爆破した旨の声明文を、「さそり」グループにおいて新聞社へ送付すること等主な内容を伝えてその賛同を得た。
ここに、被告人は、黒川、桐島の両名及び右黒川を介して「狼」の大道寺将司、片岡利明、佐々木規夫、大道寺あや子、「大地の牙」の斉藤和、浴田由紀子と、治安を妨げかつ人の身体、財産を害する目的をもつて前記の三か所にそれぞれ時限式爆弾を設置し同時に爆破して爆発物を使用する旨順次共謀を遂げ、
一 「さそり」グループでは、「狼」グループから手製雷管一個の供与をうけた上、被告人、黒川及び桐島において後記の手製爆弾と時限式起爆装置を準備し、昭和五〇年二月二八日午後六時ころ、被告人において前記ハザマビルヂング六階の間組営業本部事務室に赴き、容量約四・八リツトルの金属製菓子缶に塩素酸ナトリウムを主成分とする除草剤クロレートソーダ等の混合爆薬約四キログラムを詰めこれにトラベルウオツチ、乾電池、手製雷管等からなる時限式起爆装置を接続させて同日午後八時に爆発するよう調節した時限式爆弾一個を、右事務室内の金属製キヤビネツトに設置し、同日午後八時ころ、これを爆発させ、もつて爆発物を使用し、
二 大道寺将司、片岡利明、佐々木規夫及び大道寺あや子において、後記の手製爆弾と時限装置を準備した上、昭和五〇年二月二八日午後六時ころ、前記ハザマビルヂング九階の間組電算本部パンチテレツクス室で、大道寺将司において見張りをし、佐々木規夫において、容量約二・五リツトルの金属製粉ミルク缶に塩素酸ナトリウム、黄血塩、砂糖を重量比二対一対一の割合で混合した爆薬約二・八キログラムと塩素酸カリウム、黄血塩、砂糖を重量比二対一対一の割合で混合した爆薬約〇・二キログラム計約三キログラムを詰めこれにトラベルウオツチ、乾電池、手製雷管等からなる時限式起爆装置を接続させて同日午後八時に爆発するよう調節した時限式爆弾一個を、右パンチテレツクス室内の金属製用紙棚に設置し、同日午後八時ころ、これを爆発させ、もって爆発物を使用し、
三 斉藤和及び浴田由紀子において、後記の手製爆弾と時限式起爆装置を準備した上、昭和五〇年二月二八日午後七時ころ、前記大宮工場において、容量約三・八リツトルのブリキ製空き缶に塩素酸ナトリウムを主薬とする混合爆薬を詰めこれにトラベルウオツチ、乾電池、手製雷管等からなる時限式起爆装置を接続させて同日午後八時に爆発するよう調節した時限式爆弾一個を、同工場敷地内の第一工場北側の変電所脇に設置し、同日午後八時四分ころ、これを爆発させ、もつて爆発物を使用した、
第三 被告人は、判示第二の爆弾攻撃を受けても海外事業計画は変更しない旨の間組幹部の談話が新聞報道されたため、間組に対する爆弾攻撃をなお継続すべき旨黒川から提案されて、桐島と共にこれに賛同し、昭和五〇年三月初めころから、黒川及び桐島と共に手分けして都内及び千葉、神奈川両県にある間組の工事現場を物色、調査した末、京成電鉄江戸川橋梁架替工事のために千葉県市川市内の江戸川左岸に設けられた間組江戸川作業所の事務所建物を爆破の目標と決め、右計画は、同年三月二五日ころ及び同年四月一五日ころの三者会談の席上、黒川から「狼」グループの大道寺将司に伝えられ、更に同人から同グループの構成員である片岡利明、佐々木規夫、大道寺あや子に諮られた結果その賛同を得て、ここに、被告人は、「さそり」の黒川、桐島の両名及び黒川を介して「狼」の大道寺将司、片岡利明、佐々木規夫及び大道寺あや子と、治安を妨げかつ人の身体、財産を害する目的をもつて、千葉県市川市市川三丁目二五番地所在の間組江戸川作業所の事務所建物を爆破するため爆発物を使用する旨順次共謀を遂げ、「狼」グループの大道寺将司から手製雷管の供与をうけた「さそり」グループにおいて、後記の手製爆弾と時限式起爆装置を準備したのであるが、なお、被告人、黒川及び桐島においては、現場の下見等の結果に鑑み同作業所の事務所建物には夜間も人が居残つている可能性があり、爆弾を使用してこれを爆破すれば同所に現在する人を負傷させて死亡させることがあり得ることを十分認識しながら、それでも構わないとの意思を相通じた上、同年四月二七日午後八時ころ、桐島において、容量約一・八リツトルの金属製ボイル油缶に塩素酸ナトリウムを主成分とする除草剤デゾレートソーダと砂糖を重量比三対二の割合で混合した爆薬約二キログラムを詰めこれにトラベルウオツチ、乾電池、手製雷管等からなる時限式起爆装置を接続させ翌二八日午前零時に爆発するよう調節した時限式爆弾一個を、前記江戸川作業所の事務所建物の床下に差し入れて設置し、同月二七日午後一一時五八分ころこれを爆発させ、もつて爆発物を使用すると共に、被告人、黒川及び桐島は、右爆発により、折から右作業所の事務所内宿直室において就寝中の宿直員今井洋(当時二五歳)に対し、加療約一年三か月を要する頭部外傷等の傷害を負わせたが、同人を死亡させるまでに至らなかつた、
第四 被告人は、昭和五〇年四月三〇日ころ、黒川から東京都江戸川区北小岩三丁目二四番所在の間組の京成電鉄江戸川橋梁架替工事現場に時限式爆弾を仕掛け、さきに同所に仕掛けておいた爆弾と共に爆発させて建設工事用機械を爆破しようと提案されて桐島と共にこれに賛同し、ここに黒川及び桐島と、治安を妨げかつ人の財産を害する目的をもつて、右工事現場で爆発物を使用する旨の共謀を遂げ、黒川及び桐島において後記の手製爆弾と時限式起爆装置を準備した上、同年五月三日午後七時ころ、前記京成電鉄江戸川橋梁架替工事現場において、被告人において見張りをし、黒川において容量約一・三リツトルの軽合金製のケースに塩素酸ナトリウムを主成分とする除草剤デゾレートソーダ、黄血塩、砂糖を重量比二対一対一の割合で混合した爆薬約一キログラムを詰めこれにトラベルウオツチ、乾電池、ガス点火用ヒーター等よりなる時限式起爆装置を接続させて翌四日午前二時三〇分ころに爆発するよう調節した時限式爆弾一個を、横河工事株式会社管理の建設工事用機械であるエアマンロータリーコンプレツサー(三光機械リース株式会社所有)の下方に設置し、同月四日午前二時二六分ころ、既に同所に仕掛けておいた容量約二リツトルの金属製ワツクス缶に塩素酸ナトリウムを主成分とする除草剤デゾレートソーダ、黄血塩、砂糖を重量比二対一対一の割合で混合した爆薬約二・二キログラムを詰めこれにトラベルウオツチ、乾電池、手製雷管等からなる起爆装置を接続させた手製爆弾共々爆発させ、もつて爆発物を使用した、
ものである。
(証拠の標目)(略)
(弁護人の主張に対する当裁判所の判断)
第一 爆発物取締罰則の合憲性について
一 弁護人は、爆発物取締罰則(以下本項では本罰則という。)は、(一)明治一七年太政官布告第三二号として制定された命令であつて、昭和二二年法律第七二号一条にいう法律を以て規定すべき事項を規定した命令に該当するから、右法律一条により昭和二二年一二月三一日限りで失効したものであり、(二)その各条項に共通する基本的構成要件である「治安を妨げる目的」という概念が極めて不明確であり、且つその刑罰が苛酷であり、三条以下の各規定が近代刑法の基本原理に背馳しているばかりでなく、その運用実態に照らしても、憲法一一条、一二条、一三条、一九条、二一条、三一条等に違反し無効である旨主張する。
二 しかしながら、本罰則が現行憲法施行後の今日においてもなお法律としての効力を有するものであることは、最高裁判所の判例の示すとおりであり(最高裁第二小法廷昭和三四年七月三日判決・刑集一三巻七号一〇七五頁、最高裁第一小法廷昭和四七年三月九日判決・刑集二六巻二号一五一頁等)、また、本罰則一条にいう「治安を妨げる目的」という概念が不明確とはいえず、その定める刑がその対象とする行為に対し、均衡を欠くものではないことも亦最高裁判所の判例の示すとおりである(前記最高裁第一小法廷昭和四七年三月九日判決、最高裁第二小法廷昭和五〇年四月一八日判決・刑集二九巻四号一四八頁等)。更に、本罰則一条は、所定の目的で爆発物を使用した者を処罰するのであつて、その思想、信条のいかんを問うものではなく(最高裁第三小法廷昭和五三年六月二〇日判決・刑集三二巻四号六七〇頁)、その他、弁護人の主張を検討してみても、本罰則一条が憲法の各条項に違反するとはいえない(なお、本罰則二条以下の規定に関する所論については、本件に直接関係しないので、判断を示さない。)。
よつて、弁護人の主張は失当である。
第二 事実の認定について
一 弁護人は、判示第二の一の犯行を除くその余の各犯行につき、被告人は実行行為を行つておらず、又実行行為者との間で犯罪の共同謀議を行つたこともないから、いずれの犯行についても被告人につき共同正犯は成立せず、被告人が正犯の刑責を問われる所以はなく、判示第二の一の犯行についても、共同謀議を行つたことはないと主張するとともに、判示第三の犯行について、被告人には殺意がなかつたから、殺人未遂罪は成立しない旨主張する。
二 そこで検討するに、
(一) 被告人が本件各犯行に関与するに至つた事情は、先に(犯行に至る経緯)の項に詳しく認定したとおりであるところ、右によれば、被告人は黒川の唱道するいわゆる爆弾闘争に共鳴して、昭和四九年七月同人と共にその準備のためアパートの一室を借り受けて以来同年一一月ころまでの間、爆弾の原材料を購入、保管し、爆弾の試作やその爆発実験に関与し、更に桐島聡を同志に加えて右黒川、桐島の両名と爆弾闘争を目指す「さそり」グループを結成するなど、大手建設企業に対する爆弾闘争の実行を積極的に推進しようとしていたことが認められる。
(二) そして、先に判示した事実及び前掲各証拠によれば、被告人は、判示第一の犯行に当つては、黒川の提案に賛成して、同人及び桐島と協議の上で爆破目標としてKPH工場を選定し、爆破日時、爆弾の仕掛け担当者等を決定し、その間、自らも右KPH工場の下見に出向いたこと、右工場に仕掛けるべき爆弾の準備に当つてはかねて購入しておいた前記の除草剤等の粉砕、混合等を分担して爆弾作りに従事し、完成した爆弾を犯行当日まで前記被告人方居室に保管していたこと、報道機関に送る犯行声明文(昭和五八年押第三一四号の2)を黒川から事前に見せられその文面に異議なく同意していたこと、さらに右犯行直後、黒川及び桐島と会合してその評価の総括を行つていること等の事実が認められるのであつて、これらを総合すれば、被告人は、判示第一の犯行につき、自らは実行行為を担当しなかつたけれども、黒川、桐島両名が担当した判示の実行行為につき、事前にこれを認識していただけでなく、自己においても右両名と共同し、その実行行為を利用してKPH工場爆破を遂行する意思で両名と謀議を遂げていたことは明らかである。従つて、右犯行につき、被告人は共謀共同正犯としてその刑責を免れないといわなければならない。
所論は、当時、被告人は大手建設企業に対するいわゆる下層労働者の闘争を盛り上げるために闘わなければならないという点では、黒川と意見が一致していたが、建設企業に対する具体的な爆弾攻撃の実行については、黒川と異なり未だ確固たる決意があつたわけではなく、当時の被告人の生活は大学の授業出席とアルバイトに明け暮れていて、判示第一のKPH工場爆破については関心が薄かつたなどと主張して共謀を否定し、被告人も当公判廷において、これに沿う供述をするのであるが、右犯行の計画、実行が黒川の主導の下に行われたにもせよ、右に認定した諸事実に照らせば、被告人が自ら判示第一の犯行に加担する意思で本件謀議に加わつたことは明らかであつて、所論は理由がない。
(三) 次に、判示第二の各犯行について、所論は、(イ)前記の三グループはそれぞれの結成の事情や結成の時期を異にする別個独立の集団であつて、大手企業に対するいわゆる武装闘争を目指すことでは一致していたものの、各グループの組織内容、構成員数等については知らせ合うこともなく、相互に他のグループの行動を支配し、拘束するような関係にはなく、いわゆる「三者会談」は、三グループがそれぞれの立場で爆弾闘争を行うに当つての意見、情報の交換、攻撃計画の連絡、調整の場であつて、爆弾を仕掛けるについての具体的な共同謀議の場となるような実体はなかつた、(ロ)「さそり」グループの構成員の中で「三者会談」に出席したのは、通じて黒川のみであるところ、同人は「さそり」グループ内の意見をまとめて会談に臨んでいたわけではなく、「三者会談」で意見の一致をみた事柄等についても、同人が独自の判断で取捨選択してその一部だけを自分自身の意見として被告人と桐島へ伝えていたから、被告人は他のグループの構成員らの意思や行動を具体的に知る由もなく、被告人が右黒川を通じ「三者会談」の場を経由して、「狼」、「大地の牙」両グループの構成員らと、それらの者が行う各犯行の具体的内容についても順次謀議を遂げたというのは当たらない等と主張する。
そこで検討するに、当裁判所の判断は以下の通りである。
(1) 被告人の当公判廷における供述、証人黒川芳正の当公判廷における供述、第八、第一二回各公判調書中の証人黒川芳正の供述部分、第一四回公判調書中の証人大道寺将司の供述部分、第一六回公判調書中の証人片岡利明の供述部分、大道寺将司の昭和五〇年六月二二日付、同年七月一日付検察官に対する各供述調書(いずれも謄本)、大道寺あや子の同年六月一九日付、同年七月二日付検察官に対する各供述調書(いずれも謄本)、浴田由紀子の同年六月一三日付検察官に対する供述調書(二三丁のもの、謄本)によれば、昭和五〇年一月一〇日ころ、「さそり」グループでは黒川の提案により次の爆弾攻撃の目標として間組の作業現場を取り上げることに決め、同月二八日ころ行われた最初の三者会談において、黒川が、「さそり」では次の爆弾攻撃の目標として日本帝国主義の尖兵の役割を果たして海外に進出している間組の作業現場を考えている旨報告したところ、同年二月三日ころの三者会談で、間組攻撃に重要な意義を認めて、「さそり」だけでなく三グループ共同の攻撃対象として検討すべきことで意見が一致し、各グループがそれぞれ間組の具体的な攻撃目標等について調査、検討することになつたこと、そして同月一三日ころの三者会談において、いわゆる下層労働者の闘争を盛り上げるという考えに基づき作業現場の爆破に固執する黒川に対し、「狼」グループの大道寺将司から間組攻撃の意義がその海外進出阻止にあるからには作業現場ではなく本社ビルの中枢部を爆破すべきであり、下見調査してみたところ同ビルの警戒は手薄だから攻撃は十分可能であると説くと共に、「さそり」が同ビル爆破を担当するなら、「狼」と「大地の牙」は間組の会社幹部に対するテロ攻撃を行うと発言したこと、そこで黒川は自らも間組本社ビルを下見して警戒が手薄なことを確かめ、「さそり」の被告人と桐島にその旨説明して、攻撃目標を間組本社ビルに切り替えることを提案し、両名に異議がなかつたので、同月一七日ころの三者会談において、「さそり」は当初の計画を改め間組の海外工事局がある本社ビル六階を爆破する旨報告し、さらに、黒川の起案になる「さそり」の犯行声明の文案を席上検討したこと、攻撃目標の物色、調査を続けていた「狼」、「大地の牙」の両グループは、事前の打合わせを経た上で、同月二一日ころの三者会談において、間組の会社幹部に対するテロ攻撃を断念し、「狼」がコンピユーター室がある間組本社ビル九階を、「大地の牙」が大宮の修理工場をそれぞれ爆破することにする旨報告し、間組に対する三グループの共同攻撃用に「狼」グループが製作した雷管を、大道寺将司から黒川と斉藤和に対し、それぞれ一個あて手交し三グループが間組の前記三か所を同時に爆破することにしたこと、そして、同月二五日の三者会談において、各爆破現場の情況、担当グループの事情等を考慮した上で、最終的に爆破計画を調整し、同時爆破の日を同月二八日とし、爆破時刻については当初午後一二時とする案も「さそり」から出されたが、結局午後八時とし、その約二〇分前に、間組本社ビルについては「さそり」グループが同ビル地下の喫茶店に、大宮工場については「大地の牙」グループが近くの日本通運の倉庫に、それぞれ爆破予告の電話をかけることにしたこと、右一連の六回にわたる三者会談の内容は、「狼」、「大地の牙」の両グループにおいては、出席した大道寺将司、斉藤和からそれぞれのグループの構成員に対し、遂一詳細に報告され、各グループ内部で検討を経た上で次の三者会談に臨み、その検討の結果を踏まえて発言していること等の事実が認められる。
(2) ところで、「さそり」グループでは、「狼」、「大地の牙」の両グループの場合と異なり、三者会談に常時出席した黒川は「さそり」内部の意見をまとめた上で前記一連の協議に臨んだとは限らず、また必ずしも三者会談での協議内容を遂一そのまま被告人と桐島に報告していたとはいえないのであるが、被告人の当公判廷における供述、証人黒川芳正の当公判廷における供述及び第八、第一二回各公判調書中の証人黒川芳正の供述部分によれば、被告人は、昭和五〇年一月一〇日ころ黒川から間組に対する爆弾攻撃を提案された際、内心では東洋建設を対象に考えていたが結局右提案に従つたものであること、黒川から同人が「狼」、「大地の牙」両グループの者と折々会合することを聞知していただけでなく、同年一月二八日ころから同年二月二五日ころまでの一連の三者会談で行われた判示第二の各犯行に関する協議について、間組に対する爆弾攻撃は「さそり」グループだけでなく、「狼」、「大地の牙」の両グループも参加し三者共同して行うことになつたこと、他のグループの下見の結果間組本社ビルの警戒が手薄であることが判明し黒川自身もこれを実地に確認したので「さそり」グループとしては当初考えていた作業現場ではなく間組本社ビルを攻撃すべきこと、そして、「さそり」グループは間組の海外工事局のある同ビル六階に、「狼」グループは同ビル九階に、「大地の牙」グループは東京郊外の間組の工場に、それぞれ時限式起爆装置付きの手製爆弾を仕掛けて、右三か所を同月二八日午後八時を期して同時に爆破すること、「さそり」が当初午後一二時と予定していた爆破時刻については三者会談で同時爆破計画を話合う過程で右のように繰上げ変更したこと、「さそり」グループが右爆破時刻の約二〇分前に間組本社ビル地階の喫茶店へ犯行の予告電話をかける役割を担当すること、同時爆破の直後に東アジア反日武装戦線「さそり」が間組本社六階を爆破した旨の声明文を新聞社へ送付すること等、右計画の主要な内容を、遅くとも右の同時爆破計画の最終調整が行われた同月二五日ころまでに黒川から知らされたが、間組の施設三か所を同時に爆破することによる宣伝効果も考慮した上で異議なく右計画に賛成した上、被告人自らも二度にわたつて右間組本社ビルを下見し、間組本社ビル六階に仕掛ける爆弾の缶体に用いる菓子缶を調達し、黒川が他のグループから同時爆破用に受け取つた雷管一個をそれと知りながら用いて爆弾の準備に従事し、右同時爆破計画に則つて判示第二の一の犯行の実行行為を担当したことが認められる。
(3) 以上のような事実に鑑みれば、昭和五〇年一月二八日ころから同年二月二五日ころにかけて行われた一連の三者会談を通じて、黒川の報告を契機に三グループが間組攻撃に共通の意義を認めて提携し、相互密接な連絡の下に、間組の施設三か所を同時刻に爆破する計画が逐次立てられたことが明らかであるばかりでなく、被告人も亦、桐島と共に、右三者会談に出席した黒川を介して、「狼」、「大地の牙」の両グループの構成員と意思相通じて右同時爆破計画に参画し、判示第二の各犯行について順次共同謀議を遂げた上、自らは判示第二の一の犯行の実行行為を担当したものであることが明らかであつて、所論は首肯しがたい。
(四) 所論は、(イ)判示第三、第四の各犯行について、被告人はなんら実行行為を担当しておらず、共同謀議を行つたこともないから、被告人が共同正犯に問擬される所以はない、(ロ)判示第三の犯行について、被告人は江戸川作業所の事務所建物に深夜宿直者がいることは全く予期しておらず、殺人の故意はなかつた旨主張する。
そこで検討するに、
(1) 被告人は、これまで前掲(一)ないし(三)に述べた経過で「さそり」の爆弾闘争の一環である判示第一、第二の各犯行に次々加担したのであるが、被告人の当公判廷における供述、証人黒川芳正の当公判廷における供述、第九、第一三回各公判調書中の証人黒川芳正の供述部分、第一四回公判調書中の証人大道寺将司の供述部分、黒川芳正の昭和五〇年六月一四日付、同月二一日付検察官に対する各供述調書(いずれも謄本)によれば、判示第二の同時爆破攻撃の後も間組では海外事業計画を変更する意思がない旨新聞報道されたので、昭和五〇年三月初めころ、被告人、黒川及び桐島は、「さそり」グループとして、なお間組に対する爆弾攻撃を続行することに決し、手分けして東京周辺の間組の工事現場を探し求めた結果、被告人が探し当てた間組江戸川作業所において当時工事中であつた京成電鉄の鉄橋の爆破を計画し、同月下旬ころの三者会談の席上、黒川からその旨報告して爆破に関する知識の豊富な大道寺将司の意見を求めたところ、技術上の難点を指摘されたので、「さそり」内部で再検討し、結局、鉄橋の爆破は諦め、そのかわり、江戸川左岸の前記江戸川作業所の事務所建物とその対岸の鉄橋工事現場に据えてある建設機械の両者を同時に爆破することに計画を変更し、再度、三者会談の席上、黒川からその旨報告して「狼」グループの賛同を得、同グループに依頼して右同時爆破に使用するため雷管二個の供与を受けたこと、被告人は右計画に従つて、爆破に用いる爆弾準備のためその材料の購入、爆薬の粉砕、缶体の補強作業に従事したこと、右雷管を用いた時限式起爆装置付きの手製爆弾二個を準備した上で、被告人、黒川及び桐島が協議の末、桐島において江戸川作業所の事務所建物の床下に、黒川において対岸の建設現場の建設機械に、それぞれこれらの爆弾を一個あて仕掛け、同年四月二八日午前零時を期して両者同時に爆破することにしたこと、ところが、右江戸川作業所の事務所建物に仕掛けた爆弾は予定通り爆発したものの、建設機械に仕掛けたそれは不発に終つたため、被告人、黒川及び桐島で善後策を協議した結果、再度同所に爆弾を仕掛けて、右不発弾もろ共爆発させることとなり、判示第四の日時に被告人において現場付近で見張りを務め、黒川において再度前記の建設機械の下に時限式爆弾を仕掛けて前記不発弾と共に爆発させたことが認められる。
右に認定したところによれば、判示第三、第四の各犯行において、被告人は直接爆弾の仕掛けは担当しなかつたけれども、右各犯行の共同謀議に積極的に参加したばかりでなく、各犯行について右謀議に基づきそれぞれ重要な役割を果したと評価できるのであつて、共同正犯に問擬されるべきは当然である。
(2) そして、前掲各証拠によれば、判示第三の犯行に当つては、事前の現場調査を踏まえて、上方向に破壊力が集中するよう予め工作した爆弾を事務所建物の床下に差し込んで仕掛けることが「さそり」内部で決められ、実行を担当した桐島も右決定どおりに爆弾を仕掛けたこと、その結果、右爆弾の爆発により事務所建物が大破し、折から宿直室で就寝中の今井洋が吹き飛ばされて重傷を負つたことが明らかであるところ、黒川芳正の昭和五〇年六月一四日付、同月二一日付検察官に対する各供述調書(いずれも謄本)によれば、右の犯行に先立ち、「さそり」グループ内で、犯行予告の電話をかけるべきか話合われた際、黒川から右江戸川作業所には宿直者がいるかもしれないが、それは現場監督の立場にあつて日雇労働者を搾取する会社に手を貸す者であるから、たとえ爆破の巻き添えになることがあつてもやむを得ない旨説明したところ、被告人と桐島は異議なくこれを了解して、結局予告電話はかけないことに決したというのである。右によれば、判示第三の犯行に当たり、被告人が人の財産を害する目的を有していたことはもちろんのこと、人の身体を害する目的と殺人の故意を少くとも未必的に有していたことは明白である。
所論は、右の黒川調書は、捜査官の苛酷で理詰めの追及の結果録取作成されたもので信用できないと主張し、黒川も当公判廷において右主張に沿う弁解をするのであるが、右黒川調書の記載内容は全体として他の関係証拠ともよく符合していて、黒川自身の体験した事実を率直に述べた信用性の高いものと評価することができ、先の犯行予告電話をしないことに決したいきさつに関する部分も十分信用できるといえる。従つて、黒川の当公判廷における供述、第九、第一三回各公判調書中の証人黒川の供述部分及び被告人の当公判廷における供述のうち、右に反する部分はたやすく信用できない。
以上の次第で、事実認定に関する前記の所論はいずれも容れることができない。
(法令の適用)
被告人の判示第一、第二の一、二、三の各所為は刑法六〇条、爆発物取締罰則一条に、判示第三の所為のうち、爆発物の使用の点は刑法六〇条、爆発物取締罰則一条に、殺人未遂の点は刑法六〇条、二〇三条、一九九条に、判示第四の所為は包括して同法六〇条、爆発物取締罰則一条にそれぞれ該当するところ、判示第三の爆発物使用と殺人未遂は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い爆発物使用罪の刑で処断することとし、各所定刑中いずれも有期懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一八年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中六〇〇日を右の刑に算入することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。
(量刑の理由)
本件は、被告人が、大手建設企業に対する爆弾攻撃を標榜する「さそり」グループの一員として、同グループの構成員黒川芳正及び桐島聡と共に「狼」、「大地の牙」両グループと提携し、大手建設企業の施設等に連続的に時限式手製爆弾を仕掛けて爆発させ、そのうち間組江戸川作業所の爆破の際は、宿直員一名に対し瀕死の重傷を負わせたという事犯である。
このうち、被告人の所属する「さそり」グループが直接実行を担当した判示第一、第二の一、第三、第四の各犯行に際して使用した爆弾は、いずれも「狼」グループの作成した手引き書「腹腹時計」に依拠して「さそり」グループが製造したもので、多量の混合爆薬を金属製容器に詰めたうえ、破壊力を強めるためその外側を補強し、時限式起爆装置を装着した極めて危険性の高いものである。とりわけ、判示第三の間組江戸川作業所爆破の犯行においては、缶体の上部を除く周囲をコンクリートで塗り固めて補強し爆発力が上部に集中するように工作した爆弾を作業所の事務所建物の床下に仕掛けて深夜爆発させて右建物を大破すると共に折から宿直室で就寝中の宿直員に判示の重傷を負わせたもので、このため同人は長期療養の末、受傷後一年余を経てようやく職場復帰がかなつたものの、蒙つた精神的、肉体的苦痛は甚大であり、右受傷のためやむを得ず長期間職場を離れたことによる種々の不利益も未だ十分に回復していないことが認められる。また、判示第二の一の間組本社ビル六階爆破の犯行においては、「狼」、「大地の牙」の両グループと連携して判示第二の二、三の各犯行と同時に、約四キログラムという多量の混合爆薬を詰めた缶体を針金で緊縛するなどして補強した爆弾を爆発させたもので、これにより営業本部事務室は大破し直接的損害の額だけでも五、〇〇〇万円を超えることが認められる。更に「狼」、「大地の牙」両グループがそれぞれ実行を担当した判示第二の二、三の各犯行に使用した爆弾も前記の爆弾にほぼ匹敵する破壊力を有し、特に、判示第二の二の間組本社ビル九階爆破の犯行では、電算部パンチテレツクス室を大破し、爆破によつて発生した火災により九階の大半が焼けて、電子計算機、プログラム等が破壊され、その直接的損害の額だけでも一四億五、〇〇〇万円余に達することが認められる。
このようにして、本件は、いわゆる三菱重工業ビル爆破事件をはじめ大手企業に対する爆弾攻撃事件が頻発する最中、これら犯行の中心的存在であつた「狼」グループの唱導する東アジア反日武装戦線に参画した「さそり」グループが、「狼」、「大地の牙」両グループと連携して組織的、計画的に周到な準備を重ねて連続的に敢行したものであつて、爆破により蒙らしめた直接的損害はいうに及ばず、社会全般に深刻な衝撃と言い知れぬ恐怖を与えた極めて重大な犯行である。
被告人は、高校生のころから社会問題に深い関心を抱き、大学生当時、日雇労働者の支援活動等に携わるうち黒川芳正を知り、同人の感化を受けて日雇労働者の闘争の行き詰まりを打開するには爆弾闘争を行うべきだとの考えに共鳴し、遂には、黒川、桐島と共に「さそり」グループを結成して、本件各犯行に加担した後、昭和五〇年五月、共犯者の大半が一斉に逮捕されたころ行方をくらまし、爾来七年余の長期にわたり逃走を続け、同五七年七月、ようやく逮捕されたものであるが、本件において、攻撃対象企業の選定、具体的な爆破目標の調査とその決定、爆弾の準備、保管、運搬、仕掛け等に積極的に関与したことは既に判示したとおりであつて、「さそり」グループにおいて黒川に次ぐ重要な役割を果たしたことが認められる。被告人は、当公判廷において、国内の下層労働者や海外の反動政権下の人民から収奪を続けている大手建設企業の責任を追及すると共に、下層労働者の闘争を活発にするきつかけをつくろうという本件各犯行の動機・目的は正当であつて、ある程度成果をあげたと評価できるが、ただ判示第三の間組江戸川作業所爆破の際負傷者を出したことは、失敗であつたと供述するのであるが、被告人のいうところは、要するに自ら正しいと信ずる主義主張を遂げるためには爆弾の使用も辞せず、これによつて他に大きな損害を蒙らせることになつてもやむを得ないとする独善的な暴力肯定の主張であり、現行憲法秩序と相容れないばかりでなく、卑劣な本件各犯行を正当化しようと強弁するものであつて、動機において酌むべき余地は全くなく、犯行の後も、本件公判を通じて、真摯な反省悔悟の態度は遂に窺われないのである。
以上のような本件の犯情に照らすと、被告人の刑事責任は極めて重く、被告人につき無期懲役刑が相当である旨の検察官の量刑意見も首肯し得ないではない。
しかしながら、これまで判示したところから自ずと明らかなように、被告人の所属する「さそり」グループにおいて、本件各犯行につき終始主導的立場にあつたのは黒川芳正であり、被告人の罪責が極めて重大であるとはいえ、黒川芳正のそれと同列には論じ難いのであつて、黒川を含む本件各犯行の共犯者に対する量刑状況を勘案し、被告人のために斟酌すべき一身上の諸事情をも考慮した上で、被告人を主文掲記の刑に処するのが相当である。
よつて、主文のとおり判決する。